【寄稿】アマチュアクイズ大会文化(ユリイカ2020年7月号「クイズの世界」より)

【AQL会長より】

以下の文章はAQL前会長・市川さんが会長時代に雑誌に寄稿したものです。
現在のAQLについて、私としては「それまでのものを受け継ぐ」ことに重きを置いています。
そのうえで、この文章はAQLがこれまで培った精神を明文化したものであり、
今回ここに公開するのは大きな意義があると考えます。
ぜひ皆様にも、お読みいただけたらと存じます。 

AQL会長

佐々木康彦

 

 【寄稿者より】

 今回、雑誌『ユリイカ』編集部及びAQL役員からご許可をいただき、雑誌『ユリイカ2020年7月号』に市川尚志名義で投稿した『アマチュアクイズ大会文化』を、AQL公式ブログにて無料公開させていただくことになりました。まずは、本公開に至る上でご許可いただいた、関係各位に感謝致します。

 「アマチュアクイズ大会文化」の執筆は、雑誌『ユリイカ』編集部より、AQL実行委員会のメールアドレスを通じて市川に執筆依頼があったことに端を発します。この経緯を踏まえ、本寄稿は市川尚志名義とはなっておりますが、市川が執筆後、AQLの全役員・地域代表からご意見をいただき、多数の修正を経て投稿させていただきました。よって、実質的には「(当時の)AQL実行委員会としての寄稿」ともいえるものであり、文章の全体構成を「AQL」メインとする形と致しました。そういった経緯があるため、原稿料はAQL運営に寄付し、またこのように無料公開の場としてAQL公式ブログを選択致しました。

 本文章を改めて見返して、2020年7月当時と変わらず課題になっている点、当時から大きく前進が見られた点が、複数見受けられます。特に、続いて、主催人材の不足だ。(中略)しかし、そこに続く世代が、「広がり続けるクイズ界」に追い付いていないように感じる。」の部分が、この3年間で大きく変化をし、「様々な実力・立場を思いやれるクイズクリエイター」は、着実に増えていると実感します。また、「商業活動とのコラボ」についても、AQLの企業スポンサー締結も含め、多くのコラボが行われていると感じます。特に直近ではQuizKnockによる最大1300人を対象にしたオンライン早押しクイズイベント「クイズジャム」開催は大きなトピックと考えており、幅広い層が挑戦できる「初心者向け活動」「大型大会」など、「ボランティア」では支えきれない一部機能を、プロによる商業活動と共に行うことが、大きく前進しつつあると感じます。

 最後に、雑誌『ユリイカ』2020年7月号「クイズの世界」は、現在も購入することが可能です。大変有意義な寄稿が多数なされており、購入可能な方はぜひ一読することをお勧めします。

 

AQL初代会長

AQL埼玉リーグ代表

市川尚志


『アマチュアクイズ大会文化』

【1.はじめに】

クイズ【quiz】 (教師の試問の意)問題を出して、相手に答えさせる遊び。また、その問題。「-を出す」(『広辞苑』第七版、岩波書店、2018年)

 

 クイズは「答える遊び」というイメージがあるが、実は広辞苑によると、クイズの第一義は「相手に答えさせる遊び」となっている。

 

 クイズが「相手に答えさせる遊び」たる証拠の一つが、数々のアマチュアクイズ愛好家が開催し続け、結果として大きな文化となりつつある「アマチュアクイズ大会文化」の存在である。本稿では「アマチュアクイズ大会」についての現状と歴史を、1990年代後半から関わってきた筆者の視点で振り返ると共に、その課題や将来の展望について述べる。

 

 

【2.アマチュアクイズ大会とは?】

 まず「アマチュアクイズ」という言葉の説明から始めたい。これはあくまで筆者が好んで使っている言葉であり、そこまで一般的ではない。どちらかというと「テレビ番組以外の、素人が作ったクイズ大会」は、「草クイズ大会」と呼ぶことの方が一般的かもしれない。だが筆者は「草クイズ」という言葉を安易に使うのは避けている。「(テレビなどの)公式戦」に対して「格下・劣る」という意味を内包しているように思えるからだ。

一方で「アマチュア」という言葉は「プロ」と対比される言葉であるが、「プロよりアマチュアのレベルが高い世界」は、スポーツ界・文化界共に存在している。「クイズを生業としていない」クイズ愛好家たちが、「クリエイターとして、あるいはプレイヤーとして、誇りをもってクイズを創り、挑戦している」という意味を表すには、「アマチュアクイズ」という言葉の方がふさわしいと筆者は考えている。

 言葉の説明を通じて「アマチュアクイズの概念」をイメージしていただけたと信じ、代表的なアマチュアクイズ大会がどのような形で開催されているか説明したい。

 多くのクイズ大会は公民館など安価な施設で開催されることが多い。結果、一般的な参加費の相場は500~1000円となり、他のイベント分野に比べると破格の安さだ。標準的な開催時間は、朝11時開始19時終了の8時間程度。統一的な競技ルールはなく、大会形式の参加者への説明は大会毎の「企画書」を通じて行われる。大枠の形式は「勝ち上がり」式が大多数だ。具体的には「参加者(50~1000人)が、「筆記クイズ予選」に挑戦し40~100人程度が通過。400~1000問の「早押しクイズ」により少しずつ人数を絞り、最後勝ち残った2~6人で決勝を行い、優勝を決める」のが最もオーソドックスな形だ。殆どのクイズ大会は優勝しても賞金はなく、得られるのは「名誉」のみといっていい。大会によっては、ミニ大会を複数回行い何度も挑戦できるようにしたり、舞台を設けず「起立」で意思表示し全て全員参加にしたりと、より多くの参加者がクイズをできる工夫がなされる場合もある。大会の演出や仕掛けも多様で、シンプルに進行する大会もある一方で、「スポットライト」「スモーク」等を用いた本格的な演出を行う大会も複数存在し、「演劇」的な要素もあるといえる。

 クイズ大会はそれぞれ出題ジャンル・問題傾向、そして個人戦か団体戦など、様々なものがある。これら大会の内容と参加者のミスマッチが起きないよう、多くのアマチュアクイズ大会は「クイズナビゲーションサイト『新・一心精進』」というサイトにて告知を行い、「どんな問題傾向・形式で大会を開くか」をアピールする。告知後、Web上でエントリーを受け付ける。質の高い大会は口コミで評判が広がり、受付10分ほどで300人の定員に達することもある。

 続いて、大会を開く側の立場について述べる。殆どのアマチュアクイズサプライヤーは、無償で大会を開催している。「クイズを皆に出したい」「素晴らしい勝負が見たい」といった主催者のモチベーションが全てだ。また多くの場合、問題作成・筆記採点・司会・得点表示・音響など、数多くのスタッフがクイズ大会に関わる。主催者の人脈により本格的プログラマーや、音響のプロがスタッフに入ることもある。

 出題されるクイズ問題は、大会主催者が最もこだわるところだ。「出題されたことのない切り口を」と考える主催もいれば、競技性や難易度高騰の回避をふまえ「既出問題との重なりを気にしない」大会もある。そして「公平性」「競技性」にこだわる大規模大会となると、むしろ時間がかかるのは問題作成後だ。事実を複数の資料にあたって確認する「裏取り」、ジャンルの偏りをなくし採用問題・出題順を決める「選定作業」、コンマ1秒を争う早押しクイズにおいてミスリードを生まぬよう接続詞一つにこだわる「問題校正」など、数々のステップを経て、出題問題がブラッシュアップされていく。もちろん、チェックに過度にこだわらず気軽な出題を行う大会もある。

 大会の中には、スタッフが代替わりしながら伝統的に続いているものも多数ある。「筆記や三択クイズの採点」「クイズ進行時のスピーカー配置」などの細かなノウハウが、各大会で積み重ねられ、そして後進に受け継がれている。

 こうした流れで年269大会(2019年度の『新・一心精進』データより)もの数が開かれる各クイズ大会は、「厳密には別競技であり、形の上では分け隔てない」ことを、多くのアマチュアクイズクリエイターたちは共有している。「大会の格付け」も形の上では存在していないが、「大会の中身をプレイヤーたちがそれぞれ評価し、自動的に評価や格付けがなされていっている」ことは多々あり、「この大会で勝つ人が強い」といった考え方は、各クイズコミュニティで自然発生的に生まれている。「テレビ番組より、分け隔てなく実力者が集うアマチュアクイズ大会で勝つこと」を「上位」と位置付けている現役クイズプレイヤーも多い。

 

 今回説明したクイズ大会は典型的なものを記したにすぎず、この形を外れる大会も多数ある。むしろ、筆者としては参加者をより満足させる「型にはまらない」クイズ大会の登場に期待する立場である。

 

図:クイズナビゲーションサイト『新・一心精進』にて結果が報告された、クイズ大会の年間のべ参加者人数の推移。人数が報告されたもののみを掲載しているため、ネット文化の無かった1993年以前のデータは欠落している。(国際大会については、国内参加者のみを加算。)
図:クイズナビゲーションサイト『新・一心精進』にて結果が報告された、クイズ大会の年間のべ参加者人数の推移。人数が報告されたもののみを掲載しているため、ネット文化の無かった1993年以前のデータは欠落している。(国際大会については、国内参加者のみを加算。)

  

【3.「アマチュアクイズ大会」の歴史】

 ここ30年間クイズ愛好家が開催してきたアマチュアクイズ大会の歴史を、私なりの観点で簡単に振り返る。

 日本で最初のアマチュアクイズ大会は、1983年にスタートした学生日本一決定戦『Man of the year』だとするなど、諸説ある。ただ80年代に活躍したクイズプレイヤーの話によれば、このころのプレイヤーの多くは「テレビ番組で活躍すること」に意識が向けられ、アマチュアクイズ大会は「“公式戦”たる「テレビクイズ番組」の合間に、仲間内で行う、レクリエーション的なオマケの存在」という位置づけと捉えた者も多かったという。筆者はこの時期を「草クイズ期(図①)」と位置付けた。

 視聴者参加型クイズ番組の流行が衰えつつあった中、出場のために知識と早押し技術を磨いたクイズプレイヤーたちは、テレビに代わる「実力を競う場」を求めた。結果、大学クイズ研などを主催としたクイズ大会が本格化し「黎明期(図②)」に移行した。「テレビクイズ王」ブームと同時進行だったこともあり、700人以上の参加者を集める大会もあった。また時を同じくして、「関東クイズ連合」といった「高校生同士のクイズ大会」も生まれている。

 クイズ王番組がほぼなくなった90年代後半、多くのクイズ大会は先鋭化していく。「純粋なクイズの実力を競う」ことを旗印に、「難問・長文期(図③)」に入る。多くの読者が聞き慣れないであろう「長文」とは、「早押しクイズの問題文を長くし、難しいヒントから段々易しいヒントに移行する」というもの。「難問長文」も一つのクイズの形ではあったのはもちろんだが、「今まで出てない前振りを!」を合言葉とした難問は、新規参入者には厳しい一面があった。「一般へのアピール」的な考え方が希薄となったことも影響したのか、クイズ大会の参加数は減少傾向となった。

 「このままではクイズ大会文化は衰退するのでは?」と危機感を持った作り手も多く、様々な大会・取り組みが生まれる「多様化期(図④)」に入る。「短文・基本問題」に回帰し2003年に創始された「学生基本問題ナンバーワン決定戦『abc』」も、多様化への挑戦を行った一つの存在と言える。初年度100人程度だった『abc』参加者は、この後毎年のように大幅増加していく。

 『abc』などのクイズ大会にあこがれ、真剣にクイズに挑んでいた若手クイズプレイヤーたちは、様々な大会を作り上げ、大会文化を盛り上げていった。そんな若いプレイヤーの魅力にTV関係者が目を付け2008年にスタートしたのが「高校生クイズ「知の甲子園」」といえる(「知力の甲子園」の企画段階で、筆者はある番組制作関係者から、当時の高校生クイズプレイヤーたちの現状や魅力について事前調査された)。「知の甲子園」はクイズ番組冬の時代にアマチュアクイズプレイヤーが積み重ねた文化の一面と、それを取り巻く魅力あふれる若者の存在を一般に可視化させた。多くの若者がこの世界に興味を持ち、アマチュアクイズ大会の規模は「拡大期(図⑤)」に入る。

 『abc』などのクイズ大会で育ち、「知力の甲子園」などで発信することの重要性も知った世代が、本気で「外」に向けての発信を始めた。その代表的存在が『QuizKnock』であり、彼らの発信力の後押しによりアマチュアクイズの規模は「爆発期(図⑥)」に入った。2019年の年間クイズ大会参加者数は15000人を突破。出題ジャンルを限定する「ジャンル別大会」の増加など、大会の多様化はさらに進んでいる。中高生向けのクイズ大会も毎回200-500人というとんでもない人数が参加し、それを中高生や大学1年生達が見事に運営している。

 本稿では筆者の視点で今回の主題につながる部分を扱っただけにすぎず、この他にも様々な流れがあったことは付記したい。いずれにしても「主催がやりたいからやっている」大会が、こうして一大文化を形成したのは、特筆すべきことである。

 

 

【4.アマチュアクイズ大会の課題】

 人口が爆発的に増えた中で、アマチュアクイズ大会に様々な課題が浮かび上がってきている。筆者の視点で、特に人数が多くなってきた近年顕著になった問題を取り上げる。

 まずは、初心者への入り口に乏しいことだ。読者の皆様が「渾身のクイズ問題」を作ったら、「その分野が詳しい人」に向けて出題したくならないだろうか?実際にクイズ大会も、実力者を対象にしたものになりがちだ。ただし、そもそも「非商用」「やりたいからやっている」のがアマチュアクイズ大会であり、各大会主催者に無償で工夫を要求できない。参加者は自分に合う大会を選ぶことが求められる。しかし、そこにもう一つ課題があり、「どの大会が初心者向けか」などの情報は外部から可視化しにくい。ほとんどの主催者は商業化とは無縁の考え方でクイズ大会を開催しているため、広報活動に力を入れる大会も少数派だ。

 続いて、主催人材の不足だ。『abc』などに育てられ、「知力の甲子園」で活躍した「abc世代」ともいえる若手たちは、多くのクリエイティブなクイズコンテンツを生み出してきた。しかし、そこに続く世代が、「広がり続けるクイズ界」に追い付いていないように感じる。また地方によっては、そもそも担い手はごく少数で、クイズ大会が少ない状態が続いている。

 また、見学者の受け入れ体制も問題である。近年の人口爆発に伴い、「クイズ大会を見たい!」という方も急増している。しかし、見学者が適切なマナーを守れず、クイズプレイヤーたちとの軋轢を生んでしまう例もすでに生まれている。また、そもそも見学の受け入れ自体に対して関心がない大会主催者も大多数だろう。

 そして、参加者が大幅に増える中、ボランティアベースでの運営が限界を迎えつつある。前述の『abc』も最新回では1000人近い参加者が見込まれ、中枢を支えるボランティアスタッフから「運営が厳しい」という声も多々聞こえている。

 別視点では「安全対策」という一面だ。大会中起きる事故について、誰が責任を持つか。大人同士の大会なら「全員自己責任」もありだろうが、そのことすら明示がされてないクイズ大会が殆どだ。

 「教育機関」との関係も難しい状態にある。30年の歴史の中で、多くの「中高クイズ研究会」は設立までに苦難の道を歩んでいる。昨今中高生同士が作り上げている参加者300人規模に及ぶクイズ大会のクオリティは本当に素晴らしいが、こうしたクリエイティブな中高生の大会も各学校から「やっかいもの」的な扱いを受けてしまうことも多い。端的に言えば、「クイズ」は教育機関から認めてもらえてない面がある。

 

 

【5.『AQL』の取り組みと、アマチュアクイズ大会の未来に向けて】

 筆者はこれまでクイズ大会開催などの取り組みを通じ、クイズ文化を盛り上げてようと努めてきた。先に述べた『abc(2003年開始)』は、当時の社会人の力を結集し、内向きになりかけていたクイズを外側へ押し返す一歩としたつもりだ。また、2008年に筆者らが創始した『新人王・早押王』は、全国5会場35部屋で約1000人が同時に早押しクイズが進行する大会だ。大会の成績に応じてマッチングを行い、近い実力の者同士で早押しクイズを楽しめるシステムを整えた。また完全ボランティア・手作業状態にあったクイズ大会の告知サイトについて、2017年頃より筆者も運営に加わり、『新・一心精進』としてリニューアルした。告知関連の処理をプログラムにより自動化し、その開発費・維持費を捻出する仕組みを作り上げた。

 そして近年顕著になった問題に対しては、2017年に筆者らが創設し現在約200団体・1800人が参加している(注:2019年度の数字。2022年度は2582人・271団体が参加)日本最大規模の団体戦『AQL/全日本クイズリーグ』の運営を通じ、解決を試みている。『AQL』における取り組み例を述べさせていただく。

 まず『AQL』は「地域自治」を大きなコンセプトとして掲げた。「初心者クイズ体験会」「実力別の2部リーグ導入」など、できたばかりのクイズ研も「入り口となる勝負」ができるような工夫を、各地域の判断で実情に合わせ、ノウハウを共有しながら実施できる仕組みとした。その上で、「プレイヤー全員の運営参加」を前提とする大会システムを構築した。各人が可能な範囲で運営に関わることで、「様々な実力・立場を思いやれるクイズクリエイター」を増やしていきたいと考えている。

 また見学者を積極受け入れると共に、Web及び当日の配布物や前説などを通じ見学者へのマナー教育を重視した。見学者の積極的受け入れは、やり方次第ではクイズ大会文化を飛躍させる可能性がある。ネットクイズ制作チーム『クイズLIVEチャンネル』とコラボし大会の生中継を実施するなど、積極的な外部アピールも行っている。

 

 これまでアマチュアの世界では踏み出せなかった「マネタイズ」も重視し始めた。見学者から見学費や寄付を募るとともに、協賛企業獲得活動も開始した。アマチュア主催大会としては異例の試みであるが、世界が広がってきたからこそできることだ。得られたお金をもとに、学生の交通費を支援する他、地域が全て担うには重い事務(小道具作成やWeb広報など)をルーチン化し、有料で外部リソースを活用して回す取り組みを順次進めている。ただし、大会の核となる「クイズ問題作成」「形式決定」の部分は、クイズプレイヤーがメインを担う形を続けている。

 

クイズ大会『AQL/全日本クイズリーグ』2018年度全国大会の様子。メンバーの得点を掛け算し、200点到達で勝利するルールで行われる。写真は土浦一(北関東代表)が、無敗の開成(東京東部代表)相手に大金星を成し遂げた瞬間。観戦に訪れていた副校長先生からも、喜びの声が。
クイズ大会『AQL/全日本クイズリーグ』2018年度全国大会の様子。メンバーの得点を掛け算し、200点到達で勝利するルールで行われる。写真は土浦一(北関東代表)が、無敗の開成(東京東部代表)相手に大金星を成し遂げた瞬間。観戦に訪れていた副校長先生からも、喜びの声が。

 

 続いて、安全対策だ。大会運営にあたり、誰に安全面の責任があるか、どこまでが参加者の自己責任かなどを明示した。そして、クイズ大会主催経験が多い執行部で過去のクイズ大会の事故事例を議論、安全指針を策定した。安全指針は形骸化しないよう定期的にレビュー、広く公開して注意喚起をするとともに、他のクイズ大会でも活用できるようにした。そして安全対策と共に「ガバナンスの強化」も行った。これまでクイズ大会は「個人が趣味でやってきた」形だが、それだけでは教育機関や保護者などの理解を得づらい。目的と会の成り立ちを明記した「会則」を明示し、投票で代表者を選ぶと共に、会計の透明化を図った。以上の準備を2年かけて整えた上で、各中高に「クイズ大会出場」についての許可を求める正式文書を送る取り組みを開始した。まだ開始したばかりだが、多くの学校で、学校長からの正式大会参加許可が得られるようになってきている(注:2023年7月10日時点で全国150校から学校としてのAQL参加正式許可が得られている)。大会結果をもとに生徒が全校集会で表彰されたり、同好会・部活昇格につながるケースも多数出てきた。これらのノウハウを『AQL』だけで独占することなく、希望するアマチュアクイズ大会にも横展開できる仕組みも整えようとしている。

 筆者らが進めた活動の多くは他業界では「当たり前」かもしれないが、アマチュアクイズの世界では長く「実質のクイズの中身」が優先され、おろそかにされがちだった部分である。もちろん、筆者の取り組みもあくまでワンオブゼムにすぎない。各アマチュアクイズクリエイターたち、そしてプロたちが、様々な考えを軸に、様々な形で取り組みを行っているのが現状と言えるだろう。

 しかし、従来の「「大会をやりたい」というプレイヤーの自主性・ボランティアに任せる」だけでは解決しない問題は多数あると考えており、今後を二つのキーワードで議論すべきと考えている。一つ目は「商業活動とのコラボとのコラボ」だ。大きくなってきた世界の利点を生かし、幅広い層が挑戦できる「初心者向け活動」「大型大会」など、「ボランティア」では支えきれない一部機能を、プロによる商業活動と共に行う考え方だ。特に初心者向けの取り組みはもはや個人レベルで対応できる規模を超えており、法人として利益を得ながら世界を広げていく取り組みと相互補完していく手法は欠かせないだろう。もう一つのキーワードが「統括団体」だ。クイズプレイヤーやクリエイターたちの投票で執行部を選び、共通の課題を解決していくような「クイズの統括団体」は、現状存在しない。近い役目を『AQL実行委員会』も担っている面はあるが、目的を限った組織となっているのが現状だ。e-sportsは分かれていた複数国内団体が最終的に統合され、手を取り合って業界全体の発展を担っており、クイズの世界もそのような状態になることが理想と筆者は考えている。ただしこういった取り組みを進めるにあたり、ここまでクイズ文化を大きく発展させてきた多様なクイズクリエイターたちをリスペクトすることだけは、決して忘れてはいけないことだろう。

 

 

【6.むすび】

多くのクイズ大会に関わる過程で、筆者自身得られたものは多数あった。たとえばクイズ大会開催の過程を通じ、10代といった若い頃から「マネジメント」の実体験をさせてもらったように思っており、これらの経験は筆者の本業(半導体メモリの開発)にもフィードバックされている。かつて「クイズ王」として活躍し、現在は森永製菓(株)にて人事を担当する小林聖司氏が、私が主催するクイズ大会に参加したことがあった。長くクイズの場を離れていた小林氏は、多くのスタッフがイキイキと動くアマチュアクイズ大会に感銘を受けたようで、「人事」という視点で以下のコメントを残した。

「ボランティアスタッフを100人巻き込みつつスタッフの満足度を高めるマネジメントは大変難しい。このようなクイズ大会運営は、どんな企業のマネジメントセミナーより、実体験として得られる学びが大きいのではないか」

アマチュアクイズ大会文化を通じ、学校の枠組みでは習えない様々なことを中学時代から学んだ伊沢らが、『QuizKnock』などクイズ文化を拡大する事業を花開かせたのは大変素晴らしいことといえる。

 

最後に、クイズの世界も「コロナ禍」が襲い、多くのクイズ大会が中止・延期に追い込まれていることを記さねばならない。そんな中アマチュアクイズの世界は「オンラインクイズ」で文化をつなぎとめていることを紹介したい。商用通話アプリと、有志開発によるオンライン早押しツール(『長屋クイズアリーナ』『PCOQ』『Q-pot(注:現名称はQox)』など)を組み合わせ、オンラインでクイズ大会を行う動きが活発化している。ネットワークの問題による早押しや音声遅延こそ課題であるが、地域を超えてリアルの場に近い臨場感が楽しめる。

また、クイズアプリ『みんなで早押しクイズ』をプラットフォームとしたミニクイズ大会も多く主催されている。問題の入力インターフェースが不十分な部分がネックだが、「私の作った問題を、多数の人に解いて欲しい!」という様子は、アマチュアクイズ大会の原点を思わせる。

 

クイズ文化には、しぶとさがあると考えている。今後も時代に合わせて様々な変化をしながら、アマチュアクイズプレイヤーによる「創るクイズ文化」が発展していくと信じている。 

 

市川尚志(いちかわたかし・会社員/AQL全日本クイズリーグ会長(注・当時)